Market Intelligence Summit 2019 イベントフルレポート(2/3)
「コンテンツの時代」における日本の戦略と政策
高木 美香 (Mika Takagi) 様
経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課 課長
昨今、企業にとっての対外的なブランディングと対内的なブランディングは”融合”し始めています。サスティナビリティの大切さや会社の理念といったように、顧客と従業員の双方に共感や長期のロイヤリティを生むこれらのストーリーはブランデッドコンテンツと呼ばれ、重視されています。また、ソーシャライジングやリーディング、ショッピングなどは従来それぞれに適したメディアがありましたが、現代の若者にとってこれらは全て Instagram での体験に融合されています。
▽海外市場の取り込みと業界構造の変革で「コンテンツの時代」に臨む
Financial Times が記事の見出しで “WE ARE ALL CONTENT PROVIDERS NOW” と書いたように、従来の枠を超えた「コンンテンツの時代」が到来しているのです。コンテンツの時代における新たな消費行動には、TikTokの流行に見られる隙間時間消費や、架空のキャラクターとしてコンテンツを発信するVtuber、コンテンツ権利者側が自らデータを公開して二次三次創作を呼ぶN次創作、マスの時代にはなかったインタラクティブな消費などが挙げられます。
こうした中、政府が10年ほど前から取り組んでいるクール・ジャパン戦略は、日本ブームの創出が日本での消費を生むという好循環を生み出しました。訪日外国人の6割以上が漫画やアニメなどのコンテンツをきっかけに来日していることも分かっており、コンテンツ産業は日本の伝道師といっても過言ではありません。一方、人口の増加が期待できない日本は市場として横ばいです。そのため海外市場をいかに取り込んでいくかは、日本のコンテンツ産業にとって非常に重要な命題だといえます。
同様に大切なのが、制作工程のデジタル化によって業界構造を変えていくことです。残念ながら日本ではコンテンツ制作のデジタル化が海外ほど進んでいません。経済産業省では、クリエイターが力を発揮できる健全な制作現場へと構造を転換するため、制作経理、人材マッチング、契約・受発注管理、労務・スケジュール管理に資するソフトウェア開発に対し、補助金による支援を進めています。誰もがネット上で創作活動をできるようになっている時代の流れを反映し、たとえば音楽作詞家や作曲家、実演家、振付師、二次三次創作をした人など、様々な段階でコンテンツ創作に貢献した人に利益配分をするために、ブロックチェーン活用の取り組みも始めました。
この他にも、映像コンテンツによるブランディングを行いたい企業と映像制作者のマッチングを実施した事例や、海外の見本市に日本のコンテンツを出展するための支援事例、最新のデジタル技術を活用した先進性の高いコンテンツイベントなど、経済産業省では様々な取り組みを推進しています。Eスポーツもその一つで、市場規模の大きさや社会的意義の観点からも、単なるゲーム産業の域を超えて伸ばしていきたい領域です。
▽「コンテンツの時代」に必要なデータをSimilarwebで読み解く
コンテンツ産業政策のもう一つの側面として、経済産業省ではCODA(コンテンツ海外流通促進機構)を通じた海賊版サイトの自動監視、削除要請、権利行使を実施しています。2018年度には184,808件の削除要請をした結果、157,614件が削除されました。
海賊版サイトの中でも特にアクセスが伸びているサイトを特定するために、Similarwebを使って以下のような情報を取得し、対策に活用しています。
- 当該サイトへのアクセス数やその推移
- どの国からのアクセスが多いか
- PC or Mobileのどちらから見られているのか、デバイス別の割合
- 対策済み海賊版サイトへのアクセス数減少の効果測定
ネット時代になったからこそ出てくる課題にどのようにルール形成をしていくか。制度の作り方には様々なアプローチがありますが、規制だけでなく、民間の自主的な取り組みも含め、社会全体の“トラスト”を築き、信頼できるコンテンツをいかに健全に流通させるかが重要です。
これからのコンテンツ産業の主要なターゲットとなるのは、Z世代です。
例えばSimilarwebで、世界のZ世代から人気を博しているサイトのトップ15を [サイト訪問者の40%以上が18歳から24歳、かつ昨年対比で20%以上の成長をしているサービス] というパラメーターで抽出しました。トップサイトの中にメディカルサイトが複数入っているのも「現実的」というZ世代の特色を表しています。このようなデータからZ世代の好む世界を知ることは、未来のシナリオのヒントになるでしょう。
市場創造のためのactionable志向
小川 和也 (Kazuya Ogawa) 様
グランドデザイン株式会社 代表取締役社
人工知能やロボティクスの影響、それによる既存のビジネスモデルの淘汰と新たなビジネスモデルの隆盛など、これからの5年でビジネス環境は激変することが予想されます。特に4千万人の人口減少が確実な日本において企業が生き残るには、市場創造の技術が不可欠です。これからの時代には、使用や行動、成果につながらない「死蔵化してしまうデータ」ではなく、次の5つのことを実現する「actionableなデータ」が必要となります。
- 可視化・見える化
- 行動につながる示唆・実用的な洞察
- 発見
- 迅速な意思決定に基づく行動・実施
- 成果の市場創造技術が不可欠に
▽市場創造の鍵を握る非計画購買
一例としてクーポンを見てみましょう。日本ではいまだ購買の9割近くが実店舗において行われ、その70%が非計画購買であるとされています。何かをきっかけに思いがけず買いたくなる非計画購買は、市場創造の鍵になるといっても過言ではありません。
非計画購買を促進する手段の一つにクーポンがありますが、これまでのクーポンはほぼ“ばら撒き”状態のものでした。パーソナライズされておらず、お店にとってクーポンが最適化されていない状態のまま、長年にわたり販促施策として展開されてきたのです。
対して昨今はネット検索による計画的な購買が主流となっています。そこで、非計画購買とネット検索との相性をSimilarwebで可視化してみたところ、次のことが分かりました。
- 非計画購買をターゲットとした「市場創造」を検索経由で行うことは困難
- 検索経由の顧客獲得はチェリー・ピッカーが中心になりがち
- 「(ブランド名)クーポン」の組み合わせによる検索が多く、そもそもクーポンにたどり着くためにはブランド想起(計画性)が必要
- 検索では、自社が望まないサイトにトラフィックが流れがち
- 検索経由はファーストフード偏重
Similarwebによってこうした傾向を把握する中、非計画状態を購買につなげる技術の一つに「Gotcha! mall」があります。「Gotcha! mall」は、買い物をすると決めていない生活者のアクションデータをもとに、独自のアルゴリズムに基づいたコイン提供やプレイの促進、インセンティブの出し分けを行って購買へとつなげるプラットフォームです。商品フィギュアを一定数集めるとクーポン利用のチャンスが発動するコレクションチャンスなど、データを死蔵させないためのあらゆる取り組みがなされています。
actionableなデータをきちんと活用することによって、無料クーポンが有償購買個数を低下させず、また無料クーポン配布終了後にも有償購買が継続するなど、クーポンコストを下げられることも分かりました。
これまで企業にとって「データは自分たちだけのもの」という考え方が主流でしたが、近年では、データを死蔵化させるくらいなら外部のプラットフォームと連携して成果に変えたいという新たな流れが生まれています。
企業のDXを加速するマーケット・インテリジェンスとダッシュボード活用
杉原 剛 (Go Sugihara) 様
アタラ合同会社 CEO
アタラでは、ビジネスオペレーティングシステム「DOMO」の活用を中心とした運用型広告最適化支援などを通して、企業のマーケティングやデジタル活用の自走化を支援しています。その取り組みから、近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)にデータ活用プラットフォームが求められる背景としてDXの2025年問題を挙げ、ヒト・モノ・カネの切り口で次のように整理しました。
- モノ:何十年も延命しているレガシーシステム(Windows7, SAPのサポート終了)
- ヒト:複雑化、ブラックボックス化、サイロ化のために、経営の意思決定に必要なデータが出てこない / 技術的負債の保守・運用にリソースを割かざるをえず、最先端のデジタル技術を担う人材を確保できない
- カネ:既存システムの維持(技術的負債)にIT予算の9割がかかっている
これらの問題を放置した結果起こる、ビジネスの周回遅れやセキュリティリスクといった「放置シナリオ」を回避して「DXシナリオ」を描くために必要なのは、2025年までの間に既存システムを仕分けしながら必要なものを刷新し、人材を揃えて企業文化を作るための投資をすることです。
▽これからの時代に必要な「意思決定のIT基盤」
ただしこれは、システムが刷新されるまで5年待つ必要があるという意味ではありません。組織全体の共通言語になるデータを活用し、今やれることは今始める必要があります。ビジネスに重要なKPIも常に変動するものであり、従来のKPIに固執することなくスピーディに見直していくためには、データ環境やシステム環境が柔軟である必要があります。これからの時代はERPやSCMといった「守りのIT基盤」と、CRMやMAといった「攻めのIT基盤」の間に、常にデータをモニタリングしながら意思決定していくコックピットのような「意思決定のためのIT基盤」が必要です。
意思決定のためのIT基盤「DOMO」は、データを集めてクラウドに蓄積し、データを整形して可視化し、さらにあらゆる方法で社内外にデータを共有する仕組みを持って、誰もが使えるデータの民主化を実現しています。
▽比較することで意味を生む:データのコンテキスト化とは
それに加えて重視しているのが、データをコンテキスト化する機能です。コンテキスト化とは、データ分析の背景と目的をクリアにしてそれに沿った比較対象を選び、対目標、過去比較、市場・競合比較など、何かと比較することによってデータの持つ意味を判断する考え方です。
これはSimilarwebのプロダクト思想にも共通するものであり、アタラではDOMOダッシュボードとSimilarweb APIの連携を推奨しています。連携により、DOMOのダッシュボードからそのままSimilarwebのデータを見たり、比較対象の動きをトリガーにしたアラートを設定したりできるほか、Similarwebデータに他のデータを掛け合わせて分析できる統合的な競合分析ダッシュボードとして活用できるようになります。
事業環境が急速に変化し、企業にとってデータ活用の重要性が高まる中でも、特に自社と競合を対比してスピーディーな意思決定とアクションにつなげることは不可欠になるでしょう。 DOMOやSimilarwebは意思決定のIT基盤としてデータ活用の定着化を図り、企業のDXの推進を支援します。(後編に続く)
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