半導体業界 – デジタルデータを基に需要推移をリアルタイムに把握する(後編)
前回の「半導体業界 – デジタルデータを基に需要推移をリアルタイムに把握する(前半)」では、半導体業界を分析するにあたり、デジタルデータとの相性、また、シミラーウェブで測定可能な需要の動向のサンプルとしてMosfetカテゴリのメーカー別シェア、人気の品番をご紹介しました。
半導体業界では、IoTを活用した業務の自動化、デジタルツインやスマートマニュファクチャリングなどに代表されるように、自社の生産ラインやサプライチェーン管理をサポートするデジタライゼーションが推進されていますが、各競争市場におけるマーケット・インテリジェンスについては、他業界と同様に課題であると言えます。但し、前ブログでも指摘していますが、B2Bコマースでも、半導体業界に関しては、デジタルプラットフォームを介する商取引が急速に活発化してきています。自社製品のポジショニング、業界全体の動向の把握は、変化に順応し、また、データドリブンな意思決定・適切な施策を行うことで、短期間にマーケットリーダーにもなり得るチャンスでもあります。
後編では、以下の課題点に関して、シミラーウェブのデータを活用し、検証してみたいと思います。
- 半導体市場の需要動向に影響を与える属性とは?
- 需要動向に影響を与える属性が、どのようなデジタル上のプラットフォームに頻度高く訪問しているのか?
- 分析を行う対象サイトの、サイト内検索キーワードから、検索を行っているオーディエンスを推定する
- カテゴリレベルで、自社のアイテムを競合他社と比較、ベンチマークする方法
- ベンチマーク結果(サンプルとしてPower Suppliesカテゴリを紹介)
- デジタル上の需要動向を知ることで、どのような意思決定やアクションがとれるのか?
- パフォーマンスの優れている競合他社のマーケティング施策をチャネル別に分析する
半導体市場の需要動向に影響を与える属性とは?
半導体業界における部品購買ファネルは、B2Cと異なり、独自の購入サイクルがあります。一般的に、使用したい部品をの選択権限者(エコノミックバイヤー)は、BOM(Bill of materials = 部品表)作成の工程を管轄するR&D /エンジニアリングにあります。各部品が、公式BOMの一部として決定されると、その後、BOM(Bill of Material=部品表)上にある部品の調達を担当する購買部署へアサインをされると、最終的にコンバートされる(商品として購入される)確率が高くなります。
通常、BOMが決定されてしまうと、調達の段階で、購買担当者側で別ブランド、モデル、非純正部品などへ変更をする選択肢はほぼ無いと言われています。但し、例外として、品目BOMに登録されているプライマリのアイテムが欠品している、在庫が古くなっている、代替品よりプライマリのアイテムの単価が上がっているなどの場合に、次期の購入サイクルでプライマリではない別の部品が採用される可能性が高まります。上記のことから、BOMの技術的なレビューと、部品選択段階は、購買ファネル上において非常に重要で、各アイテムのライフタイムバリューに大きくに影響を与えていると言えます。
画像1:半導体業界におけるデジタル上の行動サイクルが属性によって異なっている理由を紹介しています。(シミラーウェブ独自調査より)
需要動向に影響を与える属性が、どのようなデジタル上のプラットフォームに頻度高く訪問しているのか?
需要動向を分析するためには、対象となるウェブサイトを特定する必要があります。対象サイトを選ぶ上で重要なポイントは、1)トラフィック量が多いこと、また、前述のとおり、2)対象属性であるR&Dエンジニアが頻度高く訪問しているサイトが求めらます。
1)トラフィック量を調べる
画像2(円グラフ):大手認定ディストリビューターの訪問数別シェア
画像2(円グラフ)は、シミラーウェブのウェブ分析を使って、グローバルに販売を展開している大手認定ディストリビューター5社(digikey.com、mouser.com、arrow.com、avnet.com、farnell.com)のトラフィックとエンゲージメントデータです。データフィルタは、過去12か月(2019年8月から2020年7月)で、全世界からのデスクトップ、及び、モバイルウェブプラットフォームからのトラフィックを基に測定されています。
画像2の円グラフにありますとおり、トラフィックの点では、digikey.com、mouser.com、 farnell.comの3サイトで、トラフィックの87%をカバーしており、同業界における流通面において重要な存在であることが反映されていると言えます。尚、画像3では、トラフィックだけでなく、各サイト内でのPV数や滞在時間、直帰率の面で比較をすると、digikey.comのパフォーマンスの高さが目立ちます。
画像3:トラフィック及びエンゲージメント指標の各社のパフォーマンス状況
2)対象属性であるR&Dエンジニアが頻度高く訪問しているサイトかどうか?
ここからは、digikey.comサイトを対象に、訪問している属性に関して検証してみたいと思います。同サイトの訪問者の属性を調べるあたり、シミラーウェブの「サイト内フレーズ分析」を活用しました。今回の分析では、2019年8月~2020年7月に米国内でdigikey.comにデスクトップから訪問している訪問者によって、同サイト内の検索ボックスを使って検索されたキーワードの内、上位600件のキーワードをタイプ別に分類を行っています。分類を行う前提としては、最終的な部品のメーカーや品番が決定されていない段階で、BOMを作成するR&D属性は、特定の品番ではなく、部品のカテゴリ名が検索されるであろう、という点です。品番を検索キーワードに入れる属性は、特定のメーカーの商品を探している段階にあるため、R&Dではなく、むしろ調達を行う購買担当者と推定されます。(以下の画像4にて、同過程を図式化)
画像4:BOMを作成するR&D属性は、特定の品番ではなく、部品のカテゴリ名が検索される
画像5:シミラーウェブのサイト内検索フレーズ
(2019年8月~2020年7月に米国内でdigikey.comにデスクトップから訪問している訪問者によって、
同サイト内の検索ボックスを使って検索されたキーワード)
画像6:digikey.comサイト内検索フレーズ分析結果
「サイト内フレーズ分析」の結果、88.6%のフレーズがフレーズ一致またはカテゴリ/モデルの表現の一部であり、品番、または品番の一部が検索されている割合は4.4%でした。 つまり、特定のメーカーの部品を探している段階に無い属性が、探している属性の何と20倍にも及ぶ計算になります。この分析結果は、より多くのR&D属性が、digikey.comを使用しているのではないかという仮説を後押しする重要な証拠と言えます。
以下は、米国の半導体調達チャネルを表す図です。前回のブログでは、半導体業界の分析に、デジタルデータがどのように活用できるかを説明しましたが、同ブログにて強調したい部分は、以下、画像7の半導体ソーシングチャンネル図中央の赤い矢印部分、R&Dエンジニア属性が、「ワンストップショップ」の認定ディストリビューターサイトへ訪問し、閲覧している部品のページビューから、需要トレンドを分析する、ということです。
大規模な認定ディストリビューターサイトは、すべてのカテゴリー毎に、豊富な部品在庫があることから、多数のメーカー商品の選択肢の中から、必要な部品を選択することができます。更に、サイトUIに、粒度の細かいフィルタ設定があり、非常にR&D属性に好まれる仕様になっています。在庫の少ないディストリビューターや、メーカーD2Cには無い利点が、ワンストップショップ型認定ディストリビューターには多く存在しています。そのような特性から、R&D属性は、digikey.comディストリビューターサイトを、情報収集のデータコレクション対象サイトとして、利用していると言えます。
画像7:半導体ソーシングチャネル図 (シミラーウェブ独自調査より作成)
カテゴリレベルで、自社のアイテムを競合他社と比較、ベンチマークする方法
ここからは、具体的に、どのように対象サイトとなるdigikey.comで分析を行うか、ご紹介します。通常、対象サイトが定まると、オーディエンスが取る行動を基に分析方法を設定します。ここでは、シミラーウェブの「Top Product Report(トッププロダクトレポート)」もしくは、「Retail Analytics(リテール・アナリティクス)」という機能で、カテゴリレベル・品番レベルのパフォーマンス分析をベースとするインサイトをご紹介しています。
分析を行う前に、対象サイトのトップページから、部品品番ページまでのフローを確認しタイと思います。
画像8:分析対象サイト上で、サイト訪問者の行動フローをチェックする
画像9:品番のページで、カテゴリ、サブカテゴリ、また、品番を確認します。
ベンチマークできるカテゴリ/サブカテゴリ
以下に、ベンチマークできるカテゴリとサブカテゴリの例をいくつか示しますが、おおよそ「トッププロダクトレポート」、もしくは、「リテール・アナリティクス」を活用することで、半導体部品の約76件、サブカテゴリの280件*におけるベンチマークが可能です。 (但し、データのボリュームや精度は、対象国、季節性、サイトの仕様に応じて、変動するため、レポートの受注をいただく前に、実施可能か否かのデータ査定のプロセスが入ります。最終的には、同査定で実施可能と判断される場合のみ、ご提供が可能となります。)
- カテゴリ/サブカテゴリ例:リレー、集積回路(IC)、センサー、パワーサプライ、オプトエレクトロニクス、ダイオード、Mosfets、Micorontollers、D/Aコンバーター、レジスター、スイッチャー他
*分析対象として、ご関心のあるカテゴリ/サブカテゴリがございましたら、シミラーウェブまで、お問い合わせください。
画像10:「センサー、トランスデューサー」カテゴリにおける、サブカテゴリ
上記、画像10は、「センサー、トランスデューサー」カテゴリ以下で、どのようなサブカテゴリの需要があるのかのサンプルデータです。圧力センサーの需要が一番高いことが分かります。
続いて、画像11では、圧力センサーの中で、どのメーカーの部品が人気が高いのかを円グラフにしてみました。TE Connectivity(27.8%)、NXP USA(25.9%)、Amphenol(16.5%)の3社で、全体の7割を占めており、日系企業のOmron Electronic、Renesas Elecrotnicsと比較すると、シェアが5~8倍もあることが分かります。
画像11:圧力センサーの人気メーカー
画像12:圧力センサーの人気品番
続いて、画像12では同じ圧力センサーカテゴリの人気品番になります。各カテゴリで、どのメーカーのどの品番の需要が高いのか、また、自社が売り込みをかけているカテゴリで、競合と比較して自社のパフォーマンスはどうか?など、これら分析から得られるインサイトは、また、そのインサイトの意味合い性は計り知れないほど多くあると言えます。以下の項で、インサイトを基に、どのようなアクションが必要なのか複数の例をご紹介します。
デジタル上の需要動向を知ることで、どのような意思決定やアクションがとれるのか?
カテゴリや品番レベルにて、業界の動向を可視化させ、競合他社に対して自社製品をベンチマークすることで得られるインサイトを基に、必要な意思決定と、プロダクト・マーケティング戦略の構築・修正に必要な市場動向のシグナルをタイムリーに得ることができるのです。尚、同部分は、競合他社や業界のデジタルデータを提供し、マーケット・インテリジェンスを行うことを推奨しているシミラーウェブが得意とするエリアになります。今回のブログのテーマである半導体業界においては、以下のアクションが考えられます。
- 売り込みをかけたいカテゴリ・品番で、競合他社の品番のシェアが大きい場合は、「ワンストップショップ」型のディストリビューターサイト在庫の補充、単価の引き下げの必要性を検討する(CVR目的ではなく、まず、R&D属性への露出強化が必要です。アイテムの陳列が無い場合は、BOM採用への検討素材の対象枠外になってしまいます。)
- 「ワンストップショップ」型ディストリビューターサイト内での、プロモーション
- 「ワンストップショップ」型ディストリビューターとのタイアップーデジタルマーケティング、メルマガなどに積極的に参加
- R&D属性をターゲットとするマーケティングチャネル・予算配分の見直し(今回のブログでは、紹介しておりませんが、シミラーウェブを活用することで、各チャネル別のメーカーのマーケティング施策の可視化が可能です)
画像13:圧力センサーカテゴリで上位3社のTE Connectivity、NXP、Amphenolと、Omron、Renesasサイトの流入チャネル
画像14)圧力センサーカテゴリで上位3社の
TE Connectivity、NXP、Amphenolと、Omron、Renesasサイトの流入チャネル、Eメールチャネルからの流入
露出期間の長いディスプレイ広告にて、プロモーションされているカテゴリ、品番を調べることで、ベンチマーク結果と相対関係があるようであれば、自社の活動に採用をするなどのアクションが求められます。
画像16:TE Connectivityのディスプレイ広告ー露出期間の長いディスプレイ。
まとめ
今回の「半導体業界 – デジタルデータを基に需要推移をリアルタイムに把握する」ブログでは前編と後編に分けて、半導体業界の動向をデジタルデータを駆使していかに把握することができるのか、というテーマで検証を行いました。同ブログでは、対象国を米国に、R&D属性のオーディエンスが頻度高く訪問している「ワンストップショップ」型認定ディストリビューターにて、需要の推移をリアルタイムに把握する分析方法をご紹介しました。
復唱になりますが、デジタルトレンドは、需要の変貌とともに常にモニタリングが必要です。また、今回は、米国を対象として検証を行いましたが、別のマーケットでの分析が必要な場合は、分析対象先のサイトの査定・選択が必要なります。
また、部品調達のチャネルも、近年、半導体メーカーのD2Cサイトも増えてきており、同チャネルでのトラフィック、コンバージョン分析なども、今後、分析が必要となるトピックと言えるでしょう。特に、購買担当者の部品調達のステージが、D2Cサイトが増えていくことで、どのように分散化されていくのか?また、メーカーによる直接販売の傾向が増えることで、メーカー側にとってパートナー企業であるワンストップショップ型のディストリビューターサイトやその他の、認定インベントリーストッカーサイトが、どのように変わってゆくのか?どの業界にも当てはまることですが、デジタル上の市場の動きを敏感に察知し、時代の先を行く意思決定スピード、実行力が求められます。日本企業による半導体業界シェアが50%であった80年代。その時代から40年が経った現在、9%まで落ち込んでいます。ただし、別の考え方をすれば0%の時代もあったわけです。
シミラーウェブでは、データ・ドリブンに意思決定ができる環境の構築サポートを行っております。ご関心のある方は、お気軽にご相談ください。
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