次世代のデジタルマーケティングアプローチ 〜時代遅れなWeb解析の終焉〜
6月に開催された宣伝会議主催の「インターネット・マーケティングフォーラム2019」に、Similarwebソリューション・エンジニア・マネージャーの森田恭平が登壇しました。
講演では「世界は次の次元に進んでいる!時代遅れのWeb解析の終焉」をテーマに、客観的なデータを活用して業界内で自社の立ち位置を把握し、戦略立案につなげることの重要性についてお伝えしました。このレポートでは、講演の内容をダイジェストでご紹介します。
直接計測と間接計測
Similarwebは、Webサイトのトラフィック数や流入経路などを計測・可視化できるアクセス解析ツールです。世の中には様々な計測ツールがありますが、その計測手法には、直接計測と関節計測の二種類があります。直接計測は、自社Webサイトの状況や広告の成果を測ることが目的であり、Google アナリティクスやAdobeアナリティクスが該当します。
一方、Similarwebは関節計測をするツールです。全世界に4億以上あるパネルデータを収集し、拡大推計したデータを活用しています。Similarwebは、Webサイトにまつわる数字そのもの(絶対値)を見るためのツールではなく、様々な側面と対比してアップダウンなどの傾向を捉えることを目的としたツールです。
昨今、ビジネスにおいてデジタル世界の市場や競合を把握することは当たり前になっており、Similarwebは企業の成長戦略策定や、投資の判断材料としても活用されています。
自社の立ち位置を知ることで、戦略を描ける
下の図は、Similarwebを使って、ある国のある期間におけるトラベル関連企業のコンバージョン率と訪問数をプロットしたものです。縦軸は訪問者数を、横軸はコンバージョン率を示しています。
Similarwebを使えば、上記のように競合他社のそれぞれの立ち位置を可視化したランドスケープを作成することができます。このようにして自社の立ち位置を知ることは、ビジネスの戦略を立てる上で非常に重要です。なぜならば、最終的に図の右上(訪問者数が多く、コンバージョン率も高いエリア)に位置することを狙うにあたり、自社の立ち位置によってそのために取るべき戦略が変わってくるからです。
例えば、自社の現在の立ち位置が左下のエリア(訪問者数が少なく、コンバージョン率も低い)だった場合。リマーケティング等でコンバージョン率を上げてからアフィリエイト等で訪問者数の母数を増やすことを目指したらいいのだろうか、それとも先に訪問者数を増やすべきなのだろうかと検討することができます。まず自社の立ち位置を理解し、他社がどのように成長したのかを把握することで、自社の戦略を描くことが可能になるのです。
成長戦略を描くのは誰の役目
この「戦略を描く」というのは誰の役目でしょうか。結論から言いますと、マーケティングや事業戦略の部門の担当者が必ずしもその責任を負っているわけではありません。例えば、自分がメディア企業に勤めていると仮定して考えてみてください。ビジネスディベロップメントのために、海外で成長しているメディア企業をリサーチするのは、マーケティング担当者やリサーチ担当者の役割になるかと思います。また、メディアの広告枠を売るための優良顧客を見つけることも大事ですし、顧客のペインポイントを把握することも重要です。ここにはセールス部門の視点が入ってきます。
また、NewsPicksは昨年アメリカのQuartzを買収しましたが、こうしたM&Aや投資には、コンサルティング会社や投資ファンドが関わってくるケースが多いでしょう。経営企画などの部署が他の企業のビジネス状況を把握しロングリストを作成することは、現代では当然になっています。
このように、他社のビジネス状況を把握すること、そのためにビッグデータを活用することは部署の垣根を超えて行われており、どのような部門にいても無関係なことではありません。
自社の3年後の立ち位置を描けているかどうか
ここでみなさんに3点お聞きします。
- 自社や自社のクライアントが、GoogleアナリティクスやAdobeアナリティクスを導入していますか。
- 自社や自社のクライアントのサービス(Webサイト)へのアクセスが、競合と比べて多いのか少ないのか、そしてその程度を把握していますか。
- 競合と比較して、自社が3年後にいるべき立ち位置はどこなのか?という点について、経営陣とコンセンサスが取れていますか。
すべてにYESと答えられた人は少ないのではないでしょうか。特に③について、3年後の姿を描けている企業とそうでない企業の違いはどこにあるのでしょうか。
客観的に多面的に立ち位置や、不足点を把握する
多くの企業は、自社のアクセスデータを基に、コンテンツや広告の最適化を行うところまではできている事でしょう。ただし本当の理解とは、自分がわかる範囲において最適化することではなく、客観性のあるデータから多面的に自社の立ち位置や至らない部分を把握することです。
それをスタートにすることで初めて、数字=根拠に基づいたチャレンジを実行し、変化を起こすための仮説検証のサイクルに入ることができます。
次からは、その事例を具体的にご紹介します。
客観的なデータから業界全体を把握し、競合企業を定める
ここでは、自社が属する業界全体の動向を把握することの大切さを説明いたします。下の図1をご覧ください。
図1
これは、オンラインの印刷サービスを手がける「アスクル」が提供するWebサイト「パワポン」のトラフィックの推移を示したものです。2017年3月以降、4月から5月にかけて、検索ボリュームが一気に数倍になり、その後も右肩上がりに伸びていることが分かります。
パワポンは、 アスクルがWebサイト上でチラシなどのテンプレートをパワーポイント形式で提供し、ユーザーはそれを基にチラシやフライヤーなどをデザインして、そのままアスクルにプリントを依頼できるというサービスです。
次に図2を見てみましょう。
図2
これは、パワポンの競合サイトである「ビスタプリント」のトラフィック数を、先ほどの図1に重ねて表示したものです。ビスタプリントもパワポンと同様に、オンラインで印刷オーダーができるサービスを提供しています。
ここで注目すべきは、パワポンの検索ボリュームが伸びているのと同様にビスタプリントの検索数も続伸傾向にあり、パワポンがこれまでと同じように伸び続けたとしても、ビスタプリントに追いつくにはまだ時間がかかりそうだ、ということです。
さらに、プリントパックやラクスルといった業界シェアの高い企業も同じ図中に示すとどうなるでしょうか。それが図3になります。
図3
ようやく印刷業界全体のランドスケープが見えてきました。
プリントパックやラクスルは、パワポンと比べて10倍以上も多いトラフィック数の世界で勝負していることが分かります。ここでお伝えしたいのは、自社の数字だけを見ていては、こうした業界全体の状況の推移に気づけないということです。それだけではなく、競合企業がどこなのかを見誤ることにもなりかねません。業界全体を見渡すことができているかどうかによってベンチマークすべき相手が変わりますし、検索キーワードの獲得状況なども変わってきます。
また、Similarwebでは、各社によるキーワードの獲得状況の変化も見ることができます。
「印刷」というビッグキーワード獲得の勝者を見てみると、2017年時点で圧倒的1位だったプリントパックを、その当時3位だったラクスルが2018年の春に追い抜きました。その理由を探るには、ラクスルがどのようなコンテンツで検索流入を獲得しているか、ランディングページを知る必要があります。もちろんそれもSimilarwebで知ることができます。
ここまでは、自社で取得しているデータだけを頼りにするのではなく、客観性のあるデータを見ることの重要性をお伝えしました。ここからは、自社の立ち位置を把握した上で「ベンチマークした競合とどのように戦うか」について、説明いたします。ただ、これに関しては決まった手法が存在するわけではないので、一つの具体例に沿って説明いたします。
RedBullから学ぶ成功事例
清涼飲料水を販売するオーストリアのRedBull社は、3年先、5年先を見据えたコミュニケーション設計を行っており、コンテンツマーケティングの世界でも多くの場面で成功事例として語られています。
同社のウェブページ画像
ここでは、デジタルマーケティングの側面から同社の成功の理由を見ていきましょう。同社は10年以上前からコンテンツマーケティングに取り組んでおり、現在ではスポーツや音楽カルチャーの他に、eスポーツ、ゲーミング、仮想通貨といったジャンルで、読み物のコンテンツを提供しています。Webサイトへの訪問者数は1カ月で数千万にのぼり、重要なマーケティングチャネルとしての位置を占めています。
図1 端末別訪問者数
上記は、同社Webサイトへのアクセス端末別訪問者数を示したものです。水色がPCから、青色がモバイルからの訪問者数を示しています。ここ数年は山や谷がありつつも、総じて現状のアクセス数を維持しています。
一方、下の図2を見ると、平均滞在時間や直帰率、一人当たりのページビューに大きく成長が見られていることから、このWebサイトでは新規の訪問数を伸ばすという方向ではなく、訪問者とのエンゲージメントに注力していることが分かります。
図2 パソコン、モバイルそれぞれの平均滞在時間グラフ
オンラインでのビジネスでは多くの場合「いつまで新規顧客を増やし続けることができるのか?」ということが課題になりますが、それを打破する一つの方向性を示し、かつそれをやり遂げている分かりやすい事例です。
エンゲージメントを強化するには追加の投資が必要になってくるのではないか、ということを懸念される方も多いと思いますが、下の図3をご覧ください。
図3 流入トラフィックボリューム
図3は、流入トラフィックボリュームの推移を示したものです。縦軸はトラフィックの割合を、横軸は2017年1月から2018年12月までの時系列を1カ月単位で示しています。また、赤色はソーシャルメディアからの流入を、黄色が自然検索からの流入の割合を示しています。
2017年1月時点ではソーシャルメディアからの流入が55%を占めていましたが、時間が経過するに連れて自然検索からの流入の割合が拡大し、2018年12月になると、自然検索からの流入が70%を占めるまでになっています。
このグラフからは、全体の訪問者数を落とさずにソーシャルメディアから自然検索へと流入経路を変化させていることが分かります。そのために、広告から制作への段階的な投資割合の移行によって、コンテンツを充実させたことが推測されます。ソーシャル施策は資本が枯渇すれば一気に流入が減りますが、自然検索は継続的な流入を期待できるため、一度コンテンツを強化すれば、ビジネスへの継続的なインパクトも維持できるでしょう。それに関連して流入先のページや流入サイトも当然変わってくるわけですが、その変化もSimilarwebで追うことができます。
以上が成長戦略の例です。業界のランドスケープを俯瞰してライバル企業がどのようなアプローチを取っているかを把握できれば、自社でやるべきことを見つけることは難しくありません。
Holisticな視点での分析:ZOZOTOWNの傾向から自社が取るべき方向性を考える
ZOZOTOWNの事例も見てみましょう。改めての説明は不要だと思いますが、ZOZOTOWNは数多くのアパレルブランドを取り扱うファッション通信販売のプラットフォームです。ZOZOTOWNの現状を紹介したうえで、ZOZOTOWNに出店するアパレル企業の視点から、取るべき戦略について触れたいと思います。
ZOZOTOWNイメージ画像
公式に発表されているわけではありませんが、ZOZOTOWNへのアクセス数が減っているという事実を知っている人は多いようです。ただし、それは部分的な数字でしかありません。
図1 ZOZOTOWNへの訪問者数の推移
この図は、ZOZOTOWNやUNIQLO、MAGASEEKといったWebサイトへの訪問者数の推移を表したものです。ZOZOTOWN(紺色の折れ線)はご覧のように漸減傾向が見られます。ビジネス全体の状況を知るためには、当然のことながらコンバージョン率が落ちているかどうかも見る必要があるわけですが、その数字もSimilarwebで見ることができます。
Webサイトへの訪問者数が減っているという理由だけで、ZOZOTOWNのビジネスが危機的であるという結論は避けた方がよいでしょう。もう一つの視点として、ZOZOTOWNアプリのユーザー数(DAU)は、下の図2で示す通り右肩上がりに伸びています。
図2
もしあなたがZOZOTOWNとビジネスをする企業の経営者であったならば、ZOZOTOWNがWebの世界からアプリ戦略へ移行しているという事実を捉えずに、短絡的に業界動向を捉えるのは危険です。
知るべきことは「今後がどうなるか」です。それでは、未来に繋がるアクショナブルなデータをご覧ください。
この図は、ZOZOTOWN(zozo.jp)を見ている人がその前後でどのようなサイトを見ているのかをSimilarwebで抽出したものです。2017年時点では関連性が41位だった楽天のBRAND AVENUEが、2019年には4位にまで上がってきています。zozo.jpを訪れた人のうちの約30%が、このサイトも見ていることが分かります。
もしあなたが少しでもアパレル業界に関わっているのであれば、把握すべきは「zozo.jpから一部のブランドが撤退している現在の状況で、次に来るサービスはどこなのか?」ということです。そのような観点から考えると、いま話をするべき相手は誰か、自ずと見えてくるかと思います。
これから伸びるビジネスを発掘し、他社に先んじる
ここからは、さらに一歩先に進んだSimilarwebの活用方法を紹介します。これから伸びる新たなビジネスを他社に先駆けて発掘することができれば、その中から自社のサービスにマッチするものが見つかるかもしれない、という話です。
Facebookに対してのMixi、Uberに対してのJapan Taxiといったように、日本にはアメリカよりも3〜4年遅れてビジネスの波が来ると言われています。先日はZoomというオンラインビデオ会議の仕組みがNsadaqに上場し、初日で1兆円を調達して大きな話題になりました。ここで大切なのは、次に流行するであろう企業やサービスが、自社のビジネスとどのように関係するかということです。
Similarwebが扱う8000万以上のWebサイトのデータから、以下のような条件で「いま勢いのあるサービス」を探しました。
条件①「自然検索」からの流入が
条件② 昨年と比較して50%以上伸びている
条件③ Web広告からの流入依存度が低い(5%以下)
条件④ インターネットや通信のサイトは?
すると、上位に挙がってきた中で未だ上場していない民間企業に「Fiverr」という企業がヒットしました。
「Fiverr」社のウェブページとSimilarwebにおける掲載順位のイメージ図
「Fiverr」はいわゆるクラウドソーシングのサービスを提供する企業で、競合他社との大きな違いは、時給制ではなく定額制である点です。違いはそれだけと言ってもいいと思います。この「Fiverr」が実は、次の大型IPOとして既に話題になっています。趣味のキャラクター作成からビジネスでのSEO対策、法務文書の作成や海外の特許手続きまで、幅広いジャンルのクラウドソーシングを取り扱っています。
同様のサービスは今のところ日本ではまだ大きな波が来ていないと言っても良いでしょう。ただし、この波が数年後には日本に来るかもしれません。日本でこの波を先取りして、自社のビジネスに取り入れることは検討の価値があるのではないでしょうか。少なくとも、定価制のクラウドソーシングサービスが世界で流行しつつあるということを日本で知っている人は少ないでしょう。
まとめ
市場の動向や競合の動きを理解せずに、自社サイトのアクセスデータだけを理解してMAやアドテクノロジーに投資するだけでは、従来と同じ市場、同じ顧客層に商品やサービスを提供するという状況から抜け出すことはできません。そこにはイノベーションが必要です。イノベーションを起こすためには、新たなビジネスモデルの開発やサービスの開発が必要だと思われるかもしれませんが、その前に着手すべきこととして、既存のサービスを新たな顧客層に対して開拓するという方法によってもイノベーションの実現は可能です。
Harvard Business Reviewによると、Coreな部分で得られる投資へのリターンは、隣接エリアの3分の1(革新エリアの7分の1)以下と言われています。
競合企業に奪われていた顧客層や自社のユーザーが他に利用しているサイト、海外で伸びているサービスなどを俯瞰的に把握することによって初めて、隣接するマーケットや顧客層を新たに見つけ出すことができるのです。ぜひ、客観性のあるデータで自社の立ち位置を把握することから始めてみてください。
本ブログは、宣伝会議主催「インターネット・マーケティングフォーラム2019」で、2019年6月5日に、弊社ソリューション・エンジニア・マネージャーの森田恭平が発表した内容を記事化したものです。
— 講演者プロフィール —
2018年からSimilarweb Japanにてセールス / エンジニアリングの責任者として、国内外の案件をリード。過去にはAdobe Systemsにてコンサルティングサービスの立ち上げのメンバーとしてビジネスの拡大に貢献。個人でグローバル最大の売上記録を残すなど大きな成果を残す。国内のWeb Analyticsのエキスパートとしては希少な海外のナレッジを持つコンサルタントとして活躍。また、ABテスティング・パーソナライゼーションの黎明期からの第一人者として、多くのエンタープライズへ導入。様々なメディアに取り上げられ話題となる。
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